世界はカーボンニュートラル(脱炭素)を加速度的に推進しています。
これは、これまでのビジネスルールを一変させ、既存産業の衰退または崩壊の危機とも言われています。
ESG(環境・社会・企業統治)の潮流、脱炭素市場での中国の独走など、こうした動きを背景に勃興する新たな経済競争にはたして日本は対応できるのでしょうか?
化石賞をもらった日本
国際NGO「気候行動ネットワーク」は11/2、地球温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」の2位に日本を選んだと発表しました。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での岸田首相の演説を批判したかたちになりました。世界的には石炭火力発電を廃止の合意が優先目標となっている中、日本は石炭火力発電を続ける方針を示したためです。化石賞は毎回COP開催中に発表されており、日本は2019年のCOP25でもこの不名誉な賞を受けています。
日本は2019年度のエネルギー供給は化石燃料による発電が75.7%を占めています。2020年10月26日、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという宣言がされましたが果たして実現できるのでしょうか?
エネルギー開発として原発の有効利用はできるのか?
フランスでは7原発の使用率が70%を超えています。日本の火力発電とおなじくらいの使用率です。
しかし、日本は東日本大震災の教訓から原発推進は当然ながらネガティブです。安易な推進は多くの国民の反感を買う事は間違いありません。
それでは、2050年までに火力発電に頼らないためにカーボンニュートラルを実現できるクリーンエネルギー開発ができるのでしょうか?このことから、現時点では原発に対しての議論がにわかに活発化するのではと思っています。とはいえその道のりは大変厳しいでしょう。
経済界の危機感
トヨタの危機感
「100万人の雇用と、15兆円もの貿易黒字が失われかねないカーボンニュートラルの遅れで自動車は輸出できなくなり、最大の輸出産業で雇用が失われる。」
トヨタ自動車の豊田章男社長が警告しています。
菅義偉前首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」の後、日本自動車工業会(自工会)の会長として宣言に賛成した上で、このままでは「産業が崩壊する」と警鐘を鳴らし続けています。
「カーボンニュートラル2050、これは国家のエネルギー政策の大変化なしに達成は難しい。ここで手を打たないと、モノ作りを残して、雇用を増やし、税金を納めるという、自動車業界がやっているビジネスモデルが崩壊する(2020年12月17日)」
「車の競争力をどれだけ上げたとしても、このままでは日本で車を作れなくなる(2021年3月11日)」
「クリーンエネルギーを調達できる国や地域への生産シフトが進み、日本の輸出や雇用が失われる可能性がある(2021年4月22日)」
「カーボンニュートラルは共感が大事」というメッセージで豊田社長のレーシングスーツ姿が印象的なテレビCMをご覧になったことがあると思います。
経済界のトップとして、トヨタ社長として先頭に立って強力にアピールしています。
日本の業界団体・大企業のトップが頻繁に、政治的な発言を繰り返し、テレビCMまで動員するのはこれまでになかったことです。
このことからもカーボンニュートラルは産業革命と言って良いのではないでしょうか?
企業の信頼を世界的に損なってしまう
カーボンニュートラルに対して積極的に取り組む姿勢がない企業へは信頼喪失という現実があるでしょう。
そうなれば近い将来取引自体の縮小、株価の下落など企業存続そのものが危うくなります。
これまでのジャパンブランドは世界から見放され、サプライチェーンとしてグローバルなビジネス展開は一層厳しくなります。
産業革命により既存産業の崩壊
EVの席巻自動車業界にとっては既存の産業構造が通用しなくなります。これは間違いありません。極端に言うと、エンジンが不要だからです。
これまでエンジンを開発するために、大中小含めて様々な企業が関わってきました。しかし今後はEVのためのバッテリー開発に移行され、既存のエンジン開発関連業者は仕事が激減します。
事実、現時点でも発注量が減り工場稼働率が激減したため、別の業種業態への製品開発を余儀なくされた企業や、廃業した企業もあります。
既存産業の破壊はすでに始まっているのが現実です。
農業生産者にも影響
牛のゲップは多くのメタンガスを含んでいます。メタンガスは温暖化への影響力も高いといわれ問題になっています。
そのことから酪農業も変革が必要となるでしょう。事実海外では牛1頭ごとに個室を設けゲップの影響力を減らす実験的な試みもしています。
また、代替肉のマーケットが伸びている事も酪農業にとっては頭の痛いところです。
カーボンニュートラルがなぜそこまで必要なのか?
生存維持の問題
地球環境を守ることは言うまでもありません。それはつまり、人間が生き続けられるかどうかをという問題です。
様々なメディアで発信されている通り、このままでは近い将来沈んでしまう島もあります。また自然災害も今より多発します。
ご存知の通り、近年の自然災害は異常ともいえ多くの犠牲者がでています。
欧州ブランドが復権を狙う
ここまで少し過激なことも書きましたが、実際な政治的な狙いもあります。
自動車業界に限って言えば、ジャパンブランドと台頭してきた中国ブランドを排除し、欧州ブランドを復権させる目的もあります。
フランスでは国とルノーが連携し今では最も進んだEVブランドを確立しようとしています。こういった産官連携は欧州内では拡大していくことでしょう。
豊田会長の指摘通り、日本も産官連携を積極的に行わなければ、グローバル市場での展開は厳しくなるでしょう。
自動車業界の挑戦
EV市場において、マーケットのトップ10に入る日本の自動車産業は日産しかいません。ランクインしているのは欧州と米、そして中国です。推測するに、日産はルノーと提携しているのでEV導入も早く、技術者もいるからでなないでしょうか?
では、それ以外のメーカーはどうしているのでしょうか?
本田の挑戦
EVのデメリットはガソリン車程燃費が良くない点です。少しでも燃費を確保するためには良質なバッテリーが必要で各メーカーもその開発に躍起になています。
長持ちするバッテリーにするためには、どうしてもバッテリー自体の重量が増える傾向があり、いかに薄く軽くするかが大きな課題です。
本田は今後のグローバル市場挑戦を見据えEVへのシフトチェンジを宣言したと同時に、独自に開発を推進しているのはそのバッテリーです。
本田では独自技術により、厚みを減らし軽減化されたバッテリーの開発に目処が立っているようです。
どこよりも軽いバッテリーを開発できれば勢力図は大きく変わるかもしれません。
期待できますね。
トヨタの挑戦
実は豊田会長は急激なEVシフトには懐疑的です。理由は差別化と既存の産業構造でしょうか?豊田会長は既存の産業構造をできるだけ維持してカーボンニュートラルを実現する取り組みをしています。先に書いたように、EV化すれば産業構造自体はかわり既存の作業は継続が厳しいいでしょう。
また、独自性に欠けます。猫もしゃくしもEVでは必然的に競争力は下がります。
そこでトヨタが力を入れているのは水素エンジンの開発です。EVシフトも徐々に取り入れながら、独自路線のカーボンニュートラルで既存の産業を守り、他メーカーとの差別化を図ります。
水素エンジンがグローバル市場に受け入れられれば大きく発展も期待できます。が、ガラパゴス化してしまうという懸念もあります。
まとめ
カーボンニュートラルは、まさに産業革命。この潮流に対応できない企業は衰退・崩壊してしまうほどのインパクトがあるといわれ、莫大な損失を被り当然雇用が守れません。
日本での課題は山積しています。原発利用を抑えつつ、2050年までに火力発電をなくすことはできるのか?産業を守れるのか?
国家の支援なくして米欧中に対抗するのは大変難しいでしょう。
しかし、日本にはものづくりの高い技術力があります。クリーンエネルギー開発も、数年後世界のベンチマークとなるような製品を開発できると思います。
そのためには、産官連携を積極的に行う国家プロジェクトとしして展開してほしいものです。